みなさんご承知の通り、2008年から京都議定書の第1約束期間が始まりましたよね。京都議定書において、日本は温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減することを求められています。
ところで、ある国のCO2排出量は以下の式で表すことができます。
CO2=GDP×(エネルギー÷GDP)×(CO2÷エネルギー)
(出典:三菱総合研究所編「排出量取引入門」p14)
この式は、経済活動の指標であるGDP(国内総生産)とCO2の関係を示しています。
右辺の第1項はGDP。
第2項は、国全体のエネルギー効率を表しています。すなわち、GDP1単位当たりを生み出すのに必要なエネルギー量です。省エネ性能がすぐれている設備をもっているほど、この値は小さくなります。
第3項は、CO2をたくさん排出するようなエネルギーを使っているか否かを示しています。たとえば、前出の「排出量取引入門」によれば、石炭、石油、天然ガスを比較すると、同じエネルギーを得るために排出されるCO2の量は、10:8:6であり、石炭から天然ガス使用へシフトすればこの値は小さくなります。また、太陽光などの再生可能エネルギーを利用すれば、CO2を排出しないので、この値を下げることができるでしょう。原子力も同じです。
したがって、この式によれば、一国のCO2を下げるためには、
@ 経済活動を縮小する(GDPを小さくする)
A 省エネ性能が高い設備を設置して、国全体のエネルギー効率をあげる
B 化石燃料から再生可能エネルギー等にシフトする
ことが必要で、実際にはこの3つをそれぞれの事情にあわせてうまく組み合わせて、温室効果ガスの排出を削減していくことになります。
経済成長を維持するためには、原子力利用促進が不可欠?
先ほど述べた通り、温室効果ガスの排出を削減するために、経済成長を小さくする、エネルギー効率をあげる、化石燃料の使用量を削減する、ことの3つの組み合わせを考える必要があります。
温室効果ガス削減をめぐるこれまでの議論をみると、経済成長は維持しつつ、エネルギー効率をあげるために設備投資を行なったり、化石燃料の利用を小さくすることに焦点が注がれていたような気がします。
しかしながら、エネルギー効率が高い設備に更新することは、非常に長い時間を要します。結果として、温室効果ガスを削減するためには、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が最重要であるという形に問題が収束しています。
問題が単純化されたからといって、一筋縄でいくようなものでは決してありません。
太陽光や風力はCO2を排出しないものの、コストが高いことや大量のエネルギーを算出するのはまだ不得手なので、一気に化石燃料からのシフトはまだ難しいといえます。
一方で、化石燃料のなかで石炭から、石油や天然ガスにシフトさせるという解決策も、もしもその移行が急であればあるほど、価格高騰を引き起こす恐れがあります。
原子力はどうか。放射性廃棄物の課題はあるものの、技術的には確立されており、温室効果ガスの削減効果は大きい。
ということで、今回の洞爺湖サミットの陰の主役は「原子力利用」だという解説していた識者も多く見受けられました。途上国(とくに中国やインド)における温室効果ガス削減の切り札としての原子力開発をめぐる覇権争いが、アメリカとフランスの間で繰り広げられていたというまことしやかな話も含めて。
とすれば、洞爺湖サミットにおける裏の合意事項は、「現在の経済成長を維持するためには、短期的には、「原子力依存率」を大きくする必要がある」、ということだったりするかもしれません。
ふたたび、経済成長は果たして絶対的に善か?
7月11日の記事「いいモノをより長く」のなかで、「経済成長は果たして絶対的に善か?」という問いについて触れました。
このときは、「分配の不公平」の状況から始まって、「先進国と途上国との間の格差をうめるような調和ある発展とはいかにあるべきか」という観点からの問いでした。
しかし、今回は同じ問いでも視点が違います。
「現行の経済成長を維持しつつ温室効果ガス削減を可能にするためには、原子力利用に頼らざるを得ない」という命題を前にしたとき、前提条件である「現行の経済成長を維持する」ということは絶対的に正しいのだろうかということです。
日経特集記事「都市と地方 豊かさ再評価」
この難しい問いを考察するヒントとして、7月12日から始まった日経新聞の特集記事「都市と地方 豊かさ再評価」は非常に秀逸な内容だと思います。
特集記事は以下の記述から始まります。
--- 引用はじめ---
地方は貧しく疲弊しているといわれる。だが北海道や九州といった「道州」単位の経済力はベルギーやデンマークなど欧州の一国に匹敵する。しかも地方には豊かな自然やゆったりした時間が流れている。都会にない「資源」を再評価し、国頼みから脱することで、地方の未来は開けてくる。
(出典:2008年7月12日付け日本経済新聞1面「都市と地方 豊かさ再評価1」)
--- 引用おわり ---
記事では、愛媛県東温市や山梨県忍野村などのケースを取り上げています。東温市は環境問題に熱心なロハスタウンとして知られている街で、太陽光発電の積極的な導入や、子どもたちがリーダーとなって省エネに取り組むことなどによって、2006年度の温室効果ガスの発生を17%も減少させた実績をもっています。また、輸送車輌などから発生する温室効果ガスを減らすために、食料の「地産地消」も強力に推進、環境負荷の低減と同時に農業振興をもねらっている施策をとっています。
「南仏が、美しい景観や食文化を背景に、航空産業を呼び込んでいる」(中村良夫・東京工業大学名誉教授 談 前出日経記事中)ように、忍野村では1984年のファナック進出を成し遂げた自信を背景に、限られた予算を重点的に景観保護に投入して、環境保全型の企業、研究所などの誘致準備に乗り出す予定となっているようです。
地方と大都市の格差は古くから解決すべき問題でした。
高度経済成長の時代では、そういった格差を「インフラ整備」によって解消してきました。「道路特定財源制度」はその象徴のひとつでしょう。このような政策を通じて、地方が「ないものを国にねだる構造」が徐々にできあがっていったのです。
しかしながら、厳しい財政状況から、従来型の「経済成長」を前提とした地域間格差を縮小する政策をとる余裕はもはやありません。
「地方はないものねだりをやめ、あるものを見つけてお宝づくりをすべきだ」(北川正恭・早稲田大学大学院教授 談 前出日経記事中)の言にある通り、豊かさ=経済成長、地域間格差の是正=経済成長、という考え方を一大転換すべき時期にきていると思います。
地方に住んでいる私にとって、「豊かな自然やゆったりと流れる時間」こそが、まさに北川先生がおっしゃる「地方がもつお宝」ではないかと強く思います。
原子力の利用促進の是非はともかくとしても、地域間格差是正と温暖化対策の視点で考えたとき、あるところで経済成長をトレードオフすべきときがすぐそこまで来ているような気がしてなりません。
経済成長を前提としないで生活の豊かさを追求するライフスタイルを、ぜひとも確立したいものです。
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